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2023.03.17お知らせ
向井理事長?学長 卒業式式辞
二〇二二年度(令和四年度)福岡女子大学第七十回卒業証書?学位記及び大学院第二十九回学位記授与式 式辞
 
 本日ここに、服部福岡県知事をはじめとするご来賓の方々の列席を得て、第70回卒業式と第29回大学院修了式を迎えることができました。221名の学部卒業生、14名の大学院修了生、そして大学から得られる最高の学位?博士を取得される4名の皆さま、まことにおめでとうございます。様々な困難があったことでしょう。お一人お一人に、その努力に負けない、お祝いを申し上げます。また、絶えることなくご支援をされたご家族の皆さまには、労いと感謝を捧げ、このおめでたい日をともに喜びたいと思います。
 
 国際寮での共同生活に始まった1年間の大学生活の後、充実したキャンパスライフが送れるとの期待が膨らむ矢先に、感染症が世界に広がり、すべてに自粛が求められることになりました。当然あってしかるべきものが突然になくなり、不自由な中で、大学生活を強いられることになりました。日常の談笑に相槌を打ってくれる相手もなく、サークル活動も中止になり、多くの授業を自宅から画面越しに受けることになりました。マスク、オンライン授業そしてSNSが、強いられた生活の象徴です。
 
 それでも学生の皆さんと私たち教職員は、制限ある環境の中で、どのような教育研究活動、学生間交流ができるかを模索し、知恵を持ち寄りながら、この間、学びと交流活動を行ってきたと信じます。福岡県は言うまでもなく、後援会や同窓会からも様々な支援の手を差し伸べていただきました。感謝です。今や卒業と修了のゴールに至って、皆さんには、この大きな変化を、本学で学んだ高度な知識と教養をもって前向きにとらえる、心の余裕を持っていただきたいと思います。
 
 歴史を振り返れば、当然視していたモノの存在や考え方が、普通ではなくなることが、多々ありました。教育にまつわる、身近な例をあげてみましょう。わたしが大学生の頃、半世紀前のことですが、電車のなかでは新聞や文庫本を読む風景がありました。それも年配の人たちは唇を動かし、時に人前でも小さく声を出しながら読んでいました。音読の習慣が黙読に変化したその名残です。今や、ほぼすべての人は紙をスマホに持ち替え、メールやネット情報を目で追っています。また、私が受けた授業では、教科書はあっても、先生の話を聞き取り、ひたすらノートにとるだけで、授業中にクラスメートと議論しあう活動はほぼありませんでした。授業する教員を、英語では、lecturerと言い、ランクが上がればreaderと呼びます。いずれも、講義用に自ら準備した原稿を読む人(readする人)の意味です。それを聞く学生は、auditor(聴く人)です。この語は、今では「聴講生」の意味に限定されて、残っています。
 
 この教育の場での「読み上げ」と「聞きとり」の関係が崩れたきっかけは、500年前に起こったイノベーション、あのグーテンベルクの活版印刷の発明でした。そして今、第2のグーテンベルク革命と言われる社会のデジタル化が着々と進行しています。コロナがそれを加速させました。馴染みのある環境に、懐かしく後戻りすることは出来ないでしょう。むしろ積極的に利用するスキルと、現実が仮想と共存する世界に対処する心の構え、思考のイノベーションが肝要だと思います。何事も一挙に変化するわけではありません。徐々に時間をかけて、社会に浸透するものです。変化の底流には連続があります。この連続こそ、劇的変化を安心?安全に受け止めるのです。変化は外から押し寄せ、連続は皆さんの内からつくられます。両者を仲立ちする役割が、変革期に生きる我々に課されています。これをむしろ幸運、或いは特権と捉えて、新しい時代を迎え撃ちましょう。
 
 さて、本学は今年、創立百周年を迎えます。百年の歴史に立つ。これもまた特権です。願ってもないめぐり合わせです。ここで、今一度本学の成り立ちを振りかえりたいと思います。私立大学には、それぞれ志高い創立者がいました。では、福女大の学祖は誰でしょうか。全国に稀を見る、福岡の女性市民たちでした。福岡県の教育行政の理解を得ながら、草の根から立ち上がった本学は、以来、女性教育に特化し、今日に至っています。ここに福女大の心意気(スピリット)を感じ取り、百周年を記念に設置された「女性リーダーシップセンター」のコンセプトは、「ないものを描く、ないものは創る」という見事な言葉に結晶しました。是非この言葉を心にとめ続けてください。
 
 本学は、国際交流、多文化共生に力を入れる大学であり、文系と理系の垣根を超えた学びを推奨する大学であります。他にはない、そのための仕掛けがいくつもありました。大学が誕生したときの本来の姿である、文化背景や出身地域そして国籍が異なる仲間と共に暮らし、学ぶことを可能にする共住の場、「国際寮なでしこ」の生活がここにありました。多様な体験学習もありました。言葉こそ、人を繋ぎ、深く考え、遠くを見通し、そして社会に変革を起こす、大切な武器であるとの考えから、福女大ほど言語教育に力を入れる大学は他にないでしょう。当たり前に思えた学修の舞台と環境は、実は、本学に固有のものなのです。我々教職員はそれを誇りにしています。難しい入学試験をくぐり抜け、学部で4年間、大学院では更に2年、或いは5年の間、ここにしかない学修を終えた皆さんにとって、これから社会に乗り出すうえで、FWU(福女大)は大きな自信と誇りになるはずです。そう信じています。
 
 ところでuniversityという言葉を分解すれば、uni=one「一つ」、vers(ity)=turned「~になった(転じた)」です。つまり、「学生、教員、職員、卒業生が一つになった、一つにまとまった集団」という意味です。折々に、福女大をアカデミック職能集団のギルドである、と語ってきた私の意図はここにあります。ギルドのメンバーは、仲間と子弟の絆を大事にし、身に付けた技とリーダーシップを社会で発揮する義務を持ちます。本学には、筑紫海会(つくしみかい)という同窓会があり、実社会の行く先々で諸先輩であるギルド仲間が待ち受けてくれます。必要な時に仲間を頼り、同窓の結びつきを強くしながら、培った力を発揮していただきたいと思います。これからの社会、デジタルという実質のない仲立ちにより結ばれる我々ですが、ギルドという同朋意識を強く持ち、相互に支え合い、導き合いながら活動を展開していただきたいと思います。
 
 最後に、皆さんの出陣を祝して、鬨の声をあげたいと思います。日本語では、「エイ、エイ、オー」英語では「Hip, hip, hurrah」ですが、ここでは、F-W-Uと言いたいと思います。ただし、声を出すことはできませんから、拳を上げる仕草で行いたいと思います。
 
 皆さんの前途を祝して、F-W-U
 
 これを以って、お祝いの言葉、お祝いの声とさせていただきます。
 
 二〇二三年三月十七日 
公立大学法人福岡女子大学
理事長?学長 向井 剛 

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