8月22日 第4回 基礎講座 「地域とアート?まちづくり」
2020年09月10日活動報告
8月22日は午前中の「企画を考えるワークショップ」に続いて、午後からはアーティストでありNPO法人BEPPU PROJECT代表理事である山出淳也さんをお迎えして基礎講座④「地域とアート?まちづくり 文化政策動向について」を実施しました。別府と会場を結んでリモートで行うこととなりましたが、BEPPU PROJECT誕生からこれまでの経緯や市民文化祭や国際芸術祭の背景や舞台裏など、アートを通じたまちづくりに取り組む人たちの先駆的存在である山出さんから様々なお話を聞くことができました。
山出さんが代表理事を務めるBEPPU PROJECTは2005年に世界有数の温泉地として知られる大分県別府市で発足しました。人々の想像力を喚起し、人が生きていく上で必要なアートを通して、地域に何をもたらすかを大切にし、文化芸術振興事業や移住、定住に向けた環境整備事業、福祉施設へのアウトリーチ、産品のブランディング、観光需要を掘り起こす情報発信事業など多岐にわたる活動を行っています。
アーティストとしてグローバルな活躍をしていた山出さんが別府でアートの力を活かした活動を行うきっかけになったのは、団体客が主な顧客層だった別府で、個人客をターゲットとしたまちあるきガイドツアーを実施する市民団体の活動を知ったことだったそうです。そのニュースに関心を持った山出さんは、子どもの頃の思い出がある別府を訪ねました。しかし、記憶に残る別府とは違い、商店街はシャッターが閉まったままの店が増え、活気を失くしていたと言います。
山出さんはその閉ざされたシャッターを壁ではなく、「関わりしろ=自分たちが関わる余白」と捉えました。物質的な充足感が求められた20世紀と違い、自分自身がいかに満足するか、体験や思い出が重視されるようになった21世紀。これまで弱みとされていたものはもはや弱みではなく、自分たちの楽しみをつくり出したい人たちの居場所となる強みではないかと考えたのです。山出さんは、自由な視点、考え方の気づきを与え、まちに新たな価値をもたらす存在であるアーティストを招き、まちの人や訪れる人がアートに触れる機会を創造していきます。
中心市街地の建物をリノベーションしてつくった地域活動の交流拠点platformや関連施設では、アートをきっかけに別府に縁ができた人と地元の人との温かい関係が生まれ、次第にアーティストやこのまちでチャレンジしたいと思う人たちの移住も増え、まちが活気づいていきました。
2010年からはこのようなチャレンジを後押しし、市民の表現や発表の場となる市民文化祭「ベップ?アート?マンス」を毎年開催。現在も続くこの市民文化祭では、別府で行われる様々な文化活動を幅広く募り、実行委員会が企画、立案や広報をサポートしています。
国際芸術祭「混浴温泉世界」は3年に1回、2009年、2012年、2015年に開催しました。2009年から、国際的で多様なアーティストを招へいし、市内に点在する作品をめぐる回遊型展覧会として開催し、多くの参加者にアートの魅力、まちの魅力に出会ってもらうことに成功してきましたが、2015年は、より深く、その場所ならではの作品体験をしてもらおうとの思いからツアー型のプロジェクトを展開し人気を集めました。
このような取り組みは、様々な形で積極的に関わる人が出てくるなど、市民にも変化をもたらしていきました。
この流れを受けて2016年から始まったプロジェクト「in BEPPU」は、自由なものの見方をもたらすアーティストの力を最大限享受しようと、企画先行のグループ展ではなく個展形式の芸術祭となり、注目のアーティストによる大規模な個展を展開し、大きなインパクトを与えました。
アートによる気づきをもたらすBEPPU PROJECTの活動は、まちの経済活動の流れを変えるなど、新たな価値を生み出していきました。温泉地に加え「アートのまち」として知られるようになった別府の魅力は訪れた人たちからも発信され、広く知られるようになっています。
山出さんのお話で、アートで変わりゆく別府のまちを深く知ることができ、創造力が社会を豊かに変えるエネルギーとなることを感じることができました。
講座最後には、山出さんの著書を手にした受講生や別府での芸術祭を訪れたこともある受講生たちから積極的に質問がありました。
海外から帰国して別府でまちづくりに関わるようになったときの心境や、予算を抑えてのリノベーションの方法、アーティストを招く方法や財源についてなど、気になる貴重なお話を聞くことができました。
山出さんからはこれからアートマネジメントに取り組む受講生へエールと健康を気遣うあたたかい言葉が送られました。
充実した3時間の講義は受講生の心に残るものとなったようです。この貴重な学びをぜひ今後に活かしてもらいたいです。